情報発信プラットフォームの大幅な進歩と普及によって、マーケティングの手法も大きく進化を遂げています。
最近よく『カスタマージャーニーマップ』が話題になっています。
SNSをはじめとする個人間レベルの情報発信プラットフォームを活用し、個々のニーズや購入行動を詳細に掌握できるマーケティング手法。商品・サービスの購入プロセスを『見える化』するカスタマージャーニーマップは、販売実績を拡大させる鍵となるでしょう。
カスタマージャーニーとは?
大手企業はもちろん、個人経営の営業戦略のツールとしても注目されているのがカスタマージャーニーというマーケティングリサーチ方法です。
カスタマージャーニーを日本語訳しますと、顧客の旅程・行程ということで、提供する商品・サービスとの出会いから、購入への興味、行動喚起と購入、利用状況までを一貫してリサーチする手法です。
カスタマージャーニーの必要性
誰かがスマホでつぶやいた言葉、誰かがSNS上にアップした動画や写真、それらが瞬時のうちに世界へ向けて情報発信される時代。
このグローバルなデジタル社会では、発信側の意図をはるかに凌駕する影響力を持ちます。力のあるインフルエンサーの興味を惹いた情報はあっという間にネット上を駆け巡り、翌朝には世界中で話題になっているというケースも珍しくありません。
マーケティングの目指すところは、顧客となるターゲットの興味や思考パターンなどインサイトの情報を徹底的にリサーチして、有効となるチャンネル・ソースを活用して適切に情報提供をすることです。
しかも不特定大多数に向けた販売戦略ではなく、可能な限り個別ニーズを絞り込み、各ペルソナ(サービス・商品の具体的なユーザー像)に向けたマーケティングが実践できるレベルを目指しているのが現代のマーティング戦略です。そのためには無数にあるチャンネル・ソースを選別し、どのチャンネルをどのように活用するかの判断が重要となります。
その判断の精度を高めるのがカスタマージャーニーです。
顧客の購入プロセス全般を見える化する
カスタマージャーニーでは、『カスタマーが購入に至る全プロセス』を具体的に見える化します。
商品・サービスの提供側としては、どのような人が、どういったルートで自社商品・サービスと出会い、どんなきっかけで購入に至ったのかに着目し、具体的なサンプルを大量に収集します。
こうして収集したデータを時系列で検証し、顧客と自社商品・サービスのタッチポイントを洗い出します。なお、購入へと誘導した要因を確認し、現状へとフィードバックさせるために効果的な方法です。
この作業によって、適切な販売チャンネルの選定をし、その提供タイミングを限定し、過不足のない、効率的で効果的な情報伝達を模索することが可能です。
そして、このマーケテイングリサーチ法で活用されるのがカスタマージャーニーマップというツールです。
カスタマージャーニーマップとは?
カスタマージャーニーの利用方法の基本は、業種に応じて独自にマップを作成することです。
カスタマージャーニーマップの作り方としては、時系列でカスタマーの行動を追跡して分析し、チャンネルごとのタッチポイント確立、タッチポイントでの顧客の判断・行動、それに対する考察や課題を検証します。
もともとターゲティングなどの販売戦略において実践されてきたことですが、チャート化することで各要素の因果関係や関連性が立体的に見えてくるのがカスタマージャーニーマップの特徴です。
そこでカスタマージャーニーマップでは、次のポイントを抑えて利用します。
カスタマージャーニーマップの利用ポイント
カスタマージャーニーマップの利用メリットは、『ユーザーの行動や感情、購入に関する意思決定を可視化』できることです。
そこで、マップの作り方としては正確で具体的な課題提起と、複雑化・多様化するUX(ユーザーエクスペリエンス)を見直すヒントが提案できるように意識します。
過去の販売行動を精査し、『どのチャネルが効果的なタッチポイントになるのか、その理由は何か』をマップ上に起こし、『顧客の期待(To be)と現状(As is)』においてどのくらいの乖離があるかを考察します。
また、顧客が利用した際の反応はどうか、喜んでSNSにアップしたかどうか、競合他社の商品との比較もしっかり行って、それらのデータをマップ化し、具体的に課題や対策を導き出すわけです。
マーケティング手法としては、AIDMA(あるいはAISAS)によって消費者の購買プロセスをチェックします。
現代のネット社会では、次のような購買プロセスをベースとします。
現在の消費者はこのように消費活動を行なっていて、カスタマージャーニーマップはこれらの項目を時系列で図式化しています。
カスタマージャーニーマップの4つの利用メリット
実際にカスタマージャーニーマップを作成することで得られるメリットはいろいろありますが、主にプラスになるポイントは次の4つです。
・ペルソナの行動や意思決定について深い理解が得られる
Webサイトやアプリで回収される体験レビューや口コミ、アンケート調査のデータは、そのまま羅列したのでは十分な顧客理解が得られません。そこで、カスタマージャーニーマップを作成すると、顧客のインサイトがストーリー性をもってシンプルに表現されます。
・ユーザー視点でマーケティング戦略が構築できる
カスタマージャーニーマップは実際の顧客の購買行動を追跡し、可視化するツールですから、導き出されるデータは顧客本位となります。顧客満足度など、ユーザーニーズに寄り添ったマーケティング戦略が講じられるのはメリットでしょう。
・社内で情報共有することで迅速に解決対策が実施される
マーケティング部は営業部やカスタマーサポート、開発部といった部署外から広く情報収集しながらマップ作成をするため、マップ作成のプロセスから結果までを社内共有しやすくします。これによって、迅速で有効な販売戦略が講じられるようになります。
・コンテンツ制作から販売までトータルで営業実績アップに貢献できる
コンテンツ制作では作り手の主観が先行し、ユーザーニーズから外れてしまうリスクがあります。ですが、カスタマージャーニーマップをベースにして、企画立案から商品化、販売までに一貫性を持たせれば、SEOに強いコンテンツ提供が可能となるでしょう。
カスタマージャーニーマップの種類
一般的に作成されるカスタマージャーニーマップには、用途によって次の3つの種類に分類されます。
戦略立案フェーズ向けとして、『マクロ型ジャーニーマップ』と『ミクロ型ジャーニーマップ』があり、施策実行フェーズ向けに『シナリオ型ジャーニーマップ』を作成することができます。
マクロ型ジャーニーマップ
マーケット調査では、一旦高みに登って全体を広く見渡す俯瞰的視点が重要となります。
マーケティングファネル(時系列で顧客数が少数化していくこと)を使って、どこに優先課題があるかを検証していきます。
マップの作り方としては、ファネル上にKPI(評価指数)を設定し、ユーザーとのタッチポイントをもれなく記入します。各タッチポイントのコンテンツ・訴求ポイント・仕組み・ツールを明確にして、評価の低いKPIの順番で優先課題を選定し、原因究明と解決策を講じます。
ミクロ型ジャーニーマップ
こちらは個々のユーザー体験をチェックするマップです。
課題解決の視点から、ユーザー体験が期待値から遠い箇所(ボトルネック)見つけるのに有効です。
マップの作り方としては、AIDMAなど消費者の購買プロセスをベースにして、顧客行動を時系列で並べます。そしてアンケートや体験レビューなどで顧客の評価の推移を調査し、その数値も記入します。
こうすることで、マーケティングのボトルネックを見つけることが可能です。
シナリオ型ジャーニーマップ
このマップでは顧客育成シナリオを構築します。
マーケティング活動を自動化するツール・MA(マーケティングオートメーション)などのデジタルマーケティングツールに登録するための顧客育成シナリオを作ることを目的とするマップです。
マップの作り方としては、ミクロ型と同様にAIDMAをベースに時系列に行動を並べてタッチポイントの記載します。そしてタッチポイントごとに、どのオファーをどのコンテンツで出すべきかを見極めます。
ポイントは、計画・実行・評価・改善のマーケティング活動サイクル・PDCAを、いかに精度の高い仮説で回していくかということです。完成度を極めるには、マップ担当内で徹底した議論を交わす必要があります。
カスタマージャーニーマップを作る前にやるべきことと注意点
カスタマージャーニーマップは、ユーザーのニーズや行動パターン、購入決定に至るまでのプロセスを把握するためのツールで、マップ作製によって販売拡大における課題解決のために利用します。
そこでカスタマージャーニーマップを作成するときは、課題解決の効果を高めるための事前準備を徹底することが肝心です。
●カスタマージャーニーマップのゴール設定
●ペルソナの設定
この2点をしっかりと準備してから作成するようにおすすめします。
カスタマージャーニーマップのゴールの設定
まず、カスタマージャーニーマップを利用する目的を明確にすることが重要です。
全てのマーケティングツールに共通することですが、どこをゴールにするか、具体的な形で目標設定をした上で作成するようにしましょう。
たとえば健康サプリの販売促進でマップを利用するとしましょう。目的とゴールを次のように設定します。
目的:コロナウイルス対策となる免役機能アップが期待できるサプリを販促する
免役アップ効果がある良質なオーガニック素材だけを厳選した漢方系サプリで、製造工程から在庫管理まで安全性にこだわっている点をアピール。数量限定の高級サプリとして売り出す。
ゴール:サプリ販売のタッチポイントと購買行動の見える化
どのチャンネルの販売効果が高いか、課題のポイントを絞り込み、その改善案を模索する。
カスタマージャーニーマップはペルソナの具体化から始める
目的・ゴールの設定が準備できましたら、次は『ペルソナ』を具体的に設定します。このペルソナがマーケティングのターゲットになります。
ペルソナの語源は『仮面』という言葉で、外観からは見えにくい個人のインサイト(人格を含む内面)をリサーチすることを意味しています。カスタマージャーニーが目指すところは、まさに具体的なユーザー像の確立で、そのユーザー像をターゲットにした販売戦略に他なりません。
バブル期までのマーケティングは、『ターゲット層を20~30代の独身女性に設定』と幅の広い顧客設定をしてきました。これでも絞り込んだ感じはあるのですが、現代の細分化する消費者ニーズをとらえるには不十分です。
同じ年代の女性でも、個人個人でライフスタイルや価値観が違うもの。ニーズの多様化によって、ターゲット設定が営業実績を左右するようになりました。
そこで『27歳、IT企業の企画部所属、休日はお気に入りのブテイックまわりとイタリアンレストランで昼食、友達は2,3人で一人の時間を楽しむタイプ』などと、きめ細かくペルソナのプロフィール設定を絞り込むなら、かなり具体的にターゲット像が見えてくることでしょう。
まず、提供する商品のユーザー対象となるペルソナを具体的にリサーチすることが成功のカギになります。
ペルソナは販売側の都合で設定するのではなく、マーケットリサーチによって実像を発見するのがポイントです。ここがカスタマージャーニーの最大の利用メリットであり、徹底したカスタマージャーニーマップの作成で実戦できます。
カスタマージャーニーマップの作り方
カスタマージャーニーマップの作り方として、次の5つのステップを意識して作成すると完成度が高まります。
作り方のステップ1:縦軸の項目を的確に設定する
カスタマージャーニーマップの作り方の基本は、的確に縦軸(項目)と横軸(ステージ)を設定することです。
まず、縦軸には顧客が商品・サービスに向けた行動や、その行動の基となる思考を項目として記入します。
一般的な項目としては、次の4つです。
●行動:宣伝・広告を見て販売チャネルへアクセス、購入、体験に至る行動
●タッチポイント:ネットの販売サイトや実店舗など、顧客の接点となる場所
●思考や感情:顧客の行動の基となる思考や、行動したときの感情
●課題:購入しなかった原因、顧客の不安や不満、提供商品・サービスの不足点
作り方のステップ2:横軸にはステージを設定する
次に横軸の設定です。顧客の行動をステージごとに分類します。
主なステージは、次の4つです。
●認知・興味:宣伝広告を見聞きし、知人などからの情報で気になっている段階
●情報収集、比較検討:商品・サービスの情報収集をして、購入を検討する段階
●商品・サービスのチェック:実際に商品・サービスに触れる最終段階
●購入:商品・サービスを購入する段階
実際のマップの作り方としては、顧客のタッチポイントが移行するタイミングでステージを区切るようにすると見える化の効果がアップします。
タッチポイントの境目では顧客の行動と思考・感情が変化しやすいため、丁寧にステージ分けをするのがポイントです。
作り方のステップ3:行動やタッチポイントを設定する
縦軸(項目)と横軸(ステージ)の設定が完成したら、次にステージごとの項目に具体的な記述をしていきます。なお、記述内容は、あくまでもペルソナをイメージしながら作成します。
先の免疫力アップの健康サプリで、ひとつ具体例を紹介してみましょう。
各ステージに『行動とタッチポイント』を記入してみます。
認知・興味
●行動:お気に入りのインフルエンサーの体験レビューで試してみたくなった
●タッチポイント:フェイスブック
情報収集・比較検討
●行動:ブランドサイトや紹介ブログで効果や成分を確認、他サプリとの違いを調べた
●タッチポイント:ブランドサイト
商品・サービスのチェック
●行動:近所の薬局で常駐の薬剤師から詳しい説明を受ける
●タッチポイント:店舗・薬剤師
購入
●行動:まずはお試しパックを購入した
●タッチポイント:ショップ
ステージ内の行動を詳細に区分けすると、それだけ見える化の完成度が高まります。
様々な行動パターンを拾い上げて、マップを充実させてください。
作り方のステップ4:顧客の思考・感情を設定する
次は、行動の際の心の動きを注解します。
認知・興味
●思考:感染症に罹りやすい体質が改善されるか
●感情:漢方薬なら副作用の心配がないが、効果が出るまで時間がかかりそう
情報収集・比較検討
●思考:表示されている成分はなにか、品質は確かか、他のサプリと何が違うのか
●感情:人気のあるサプリで試してみたい、値段が高いのが気になる
商品・サービスのチェック
●思考:自分に合うのか、ちょっと試してみないとわからない
●感情:毎日2回飲むだけなら続けられそう
購入
●思考:安い価格でお試しがあったので購入しよう
●感情:効果には不安があるけど、サプリはダメでもともと
なお、感情についてはプラスかマイナスかの評価を付け加えると、行動に対する理由が分かりやすくなります。
作り方のステップ5:ステージ別で課題分析する
ここまで情報入力が進みましたら、後は各ステージにおける課題分析していきます。
顧客が不安・不満・不足とする要因は何なのかを具体的に提案するように作成してください。
認知・興味
●影響力のあるインフルエンサーが商品を取り上げている様子がない
●体験レビューでの評価があまり良くない
情報収集・比較検討
●同じようなサプリが多く、商品の差別化が十分ではない
●価格設定とユーザー評価に乖離があるかもしれない
商品・サービスのチェック
●購入しないと効果を確かめられない
●店頭での商品説明が不十分、商品提供サイトの検索順位が低い(SEO対策の問題)
購入
●お試しパックの価格がやや高め
●リピート率が低め、リピーターへの特別サービスが弱い
課題の提案は、顧客の不満や不安を的確にとらえ、具体的なポイントに絞り込むのがコツです。また、ステージ内に複数の問題点があれば、優先順位を付けて課題に挙げるようにします。
まとめ
カスタマージャーニーマップは、ランダムに発生するマーケティング上の課題点を浮き彫りにしてくれるツールです。作り方は基本を押さえておけば、あとはそれぞれで創意工夫して完成度を高めることができるでしょう。
そしてカスタマージャーニーマップを作成したら、浮き彫りになった課題を徹底検証し、実践可能な対策を講じることがポイントです。
マップ作成で満足してしまい、『絵にかいた餅』となるケースもありますからご注意ください。